目黒は洗足の、広々とした造りの良い一軒家の中にぎっしりとプラモが積まれながら売られているお店。「街のプラモ屋さん」の中では随一であり唯一の規模と雰囲気のお店だったのではないでしょうか。その独特な空間が話題を呼び「雷王模型店」はたくさんの方が取材をされていました。
お店へはたった1度しか行けませんでしたが、強烈な雰囲気のお店に反して、店主の雷王さんの穏やかなこと。はじめは人見知りで警戒していた私も不思議と打ち解け、気さくで心の優しい雷王さんとすっかり仲良くなりました。その後も私の活動をネットで見ていてくれたり、Twitterでもいつも応援をしてくださっていました。
また会う約束をした友人と、もう2度と会えなくなってしまった、そんな、とてもさみしい気持ちです。久しぶりに声をあげて泣きました。やりきれない気持ちを思い出に込めて、出来るだけ悲しくないように書き残したいです。
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ステイホーム期間中、Little Nonメンバーと頻繁に連絡をとるようになった。
朝方ベッドに潜っているとギターのシュンからグループラインに連絡が。見ると、再販されたガンプラの旧キットが並んだ写真。"街のプラモ屋さん"にあったけどどうする?買っとく?と。ガンダム世代のおやぶんと大生ならまだしも、シュンからこんな連絡が来るなんて珍しい。なんでも、いつもは気にならないのに、たまたま通りがかったお店で呼ばれたとか。
ラインナップは1/100シャア専用ズゴック、量産型ズゴック、ガンキャノン、アッグ。うーん、再販旧キットは予約していたビグ・ザムとエルメス(×2)が届いたばっかりだからなあと
そんな思考回路の中でふと、大島雷王さんのことを思い出した。最近ネットの中でお見かけしていない。「雷王模型店」というプラモデル屋さんを経営されていて、一軒家の各部屋から廊下が商品のプラモでぎっしり埋まっている、そんなものすごい様子が色々なところで取り沙汰されている方。
「また来ますね!」と別れたままもう会えなくなってしまった雷王さんとの思い出の旅は、そんなひょんなことから始まった。
バンドひとすじになる前の話。学生時代以来、一度卒業した気になっていたプラモ熱がダムを突かれたように巨大な波となってぶり返した2019年の夏。下北沢のホビーショップサニーと、渋谷や新宿、秋葉原の模型店の展示品と、模型誌と、家に母の原稿を取りに来た担当編集さんやアシスタントさんだけがガンプラの窓だった私にとっては、ちょっとダイヴすればすごいひとのプラモや、楽しんで作っているたくさんのひとに触れられる現代はとんでもなく幸せな未来にタイムスリップしたかのようだ。
そんなハッピー浦島太郎の私はプラモ脳内麻薬みたいなものがドバドバ出ていて、とにかくウワサの「雷王模型店」に行きたくて仕方なかった。行ってみて、お買い物がしたかった。
地図を見ながら付近をうろうろしていると、平和な住宅街の道に突如「プラモデル」と書かれたのぼりが出ている。興奮で崩れ落ちそうになった。雷王模型店、開店してる!!
もうこの時点で興奮と緊張がMAXファクトリーで、そこからはもう、1枚の写真を撮ることもできなかった。

その日撮った唯一の写真。よくある風景がたった1本のプラモデルのぼりでワクワク大変身。
過去に来訪された方のネットの記事を参考にめちゃくちゃ下調べをしてきたので入店方法もバッチリ抑えては来たものの(インターホンで呼び出して門を開けていただく)、やはり、こわい。本気で完全に知らない人の家だ。
「やっぱりいいです!」と脱兎の如く逃げ出すルート選択で頭をいっぱいにしつつ、私は初対面の人の家に上がるのではない、プラモ屋さんにプラモを買いに来たお客さんなんだ。と自分を落ち着かせた。
のんびり迎え出てくれた店主の大きな背中を追って中庭を抜けると、辿り着いた玄関は早速の塗料コーナー。懐かしのガンダムカラーセットが山のようにある!
Mr.カラーのフタにまだ大きなマイナスネジみたいな取っ手が付いている旧型の塗料。が、ホコリを被りながらもたくさん並んでいる。
商品のアクションベースだけでいっぱいの宅配200サイズぐらいの大きなダンボール。
これはもう「模型店」という形態をとった夢のコレクションルームだ。
生活感のある、というかザ・生活真っ只中の、なんならお家の中でサバイバルしながらプラモと暮らしているイメージさえある男性宅の玄関に立つだけでも頭は大混乱なのに、飛び込んでくる情報量の多さと懐かしさ。卒倒しそうだった。五感から得られる情報のあまりの多さに、私は本当はここには相応しくない人で、もしかしたら来ちゃいけなかったかもしれないとすら思った。
〜以下イメージ〜
雷王さん「汝、探し物はなんぞや?」
私「(探してるもの…敢えて聞いてくれるのであれば)お友達が探してるんですけど(当時、今ほど価値を分かっていなかっためちゃくちゃ古いプラモの名前)」
雷王さん「(その友達はそんなものを人に探させて何を考えているんだとちょっと怒り気味の説教が始まる)」
完全なる「人んち」の玄関先で私がうっかり天然発言をしたばかりに、その場にいない友人がなぜか怒られることに。そういうんじゃないんですよ!と必死でフォローをする私。やばい。こんなことしに来たんじゃない。
私「あっ、ガンプラ…!ガンプラが欲しいんです!」
この意味不明な空気を変えようと、本当にお買いものに来たガンプラ欲しさをアピール。雷王さんもニコニコ笑顔に変わり、売り場であるおうちを案内していただいた。ガンプラは世界を救う。
イメージ終わり。
ガンプラコーナーは2階。とりあえず1階の戦車と戦艦の部屋を見せてもらい(吉岡平先生の「宇宙一の無責任男シリーズ」を読んで戦艦に親しみの湧いた今のテンションでもう一度行きたい)、しっかりした木製の階段を上ったところにある「ガンダムじゃないコーナー(ボトムズ、ダンバイン、マクロス等)」を抜けると、いよいよガンプラコーナーに。
廊下はSD。の山!そして和風の木造のお部屋はどこもかしこも山のような、何かの祭壇のような、もはやビルのような、積まれたガンプラ。崩れそうなガンプラ。ガンプラ!!
雷王さん「こっちはHGの部屋、あっちはMG。あっちはその他のが〜」
私「全部見せてください…!」
静かな私の興奮に気を遣ってか、何かあったら呼んでくださいね、と1人きりにしてくれた。最終的に本気でプラモと向き合うときは、いつだって1人なのだ。
天井までみっしりとプラモが積み上がっていたり、そうでないところも、360度全天周囲プラモ。と、おうち。もの凄い。途方に暮れることが嬉しいという稀な体験をした。
プラモ脳内麻薬(他にいい表現はないのか)でぐるぐるしていたのであまりよく覚えていないのだけれど、1人静かに存分に堪能させてもらったあとは雷王さんと延々とおしゃべりをした。人生でたまに出会う、それまで出会ってなかった分の時間を取り戻すようなやりとりが自然に出来てしまう人。雷王さんもその1人だった。
「街のプラモ屋」の事情、ガンダムの話、プラモの話から、初めて行ったガンダムベース東京に感動した話とか、話が飛躍して、オタクの生活についてとか、お互い結婚は無理そうだとまで笑って話したり、そんなふうにガンダムやプラモを話題の共通項にしながら、新しくできた友達と延々と語り合った。
「(玄関先でちょっと怒ったプラモ)あれね、熱くなっちゃってごめんなさいね。実は過去に僕も探していたことがあったんですよ」
と、雷王さん。
初対面の人のおうちの玄関先でちょっと怒られて、その日のうちに仲直りするなんて経験はさすがに初めてだ。
もしかしたら、ネガティブなところをつつけばそういうものがたくさん出るかもしれないプラモの販売形態を取りながらも、なんだかんだでたくさんの人から永い間愛され続けて来た「雷王模型店」は、雷王さんのお人柄があってこそだったのだと感じた。今回のことで雷王さんを振り返るひとたちは、皆彼の気さくさやあたたかさに触れている。
街のプラモ屋さんがどんどん閉業している今、店主の頭の中をのぞけるような空間は貴重だ。めちゃくちゃ楽しい。もちろん、通販も利用するし、足を伸ばして量販店や大型店に行くのも大好き。ガンダムベース東京は聖地だ。

プラモは長時間向き合うせいか、思い入れが深くなる。
作中のパイロットやそこに関わる人物達のドラマと一緒に、プラモに触れる人間達の想いや人生をも組み込む。楽しいことも悲しいことも思い出としてビルドされてしまった機体たち。それはもう、魂のようなものが入ったといってもいい。
音楽を聴きながら、考え事をしながら、思い出を反芻しながら、プラモと向き合う時間が好きだ。
配信とかそういう明るい場所で皆さんとやりとりできるのもいいかもしれないね。
大島雷王さんのことで、改めてプラモと精神的なところで向き合えた。
プラモと精神的なところで向き合うってなんだろうね。
プラモは作るのがいちばん楽しいよ!
素敵な思い出を、ありがとうございました。